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「アルペンガイド 南アルプス」の発売

2020年6月7日  6/17(水)に「アルペンガイド 南アルプス」が発売される。南アルプス北部の2/3のコースの写真とガイドを提供している。

私にとって、この本の出版は写真家人生で大きなプロジェクトであったし、久しぶりの師匠との共同作業でもあり、素直に喜びを感じている。

このブログで今回の出版にあたって私が感じたことを述べておきたい。

簡潔に言うと、それは南アルプスの写真撮影が困難を極める時があること、山岳写真に対する自分の変化、繋がり、そして最後は、社会貢献である。

 

困難へのチャレンジ

南アルプスの気象条件は、アルプスの中では最も太平洋側の気候の影響を受ける山域であり、千葉県民の私にとっては、関東の天気予報を確認しながら山を訪れることができたが、一方で、夏、秋といった山岳ベストシーズンに最も台風の影響を受ける山域でもある。実際、2017年夏の一部、2019年秋の取材スケジュールは破綻していた。次に気象条件と深く関連するが、利用可能な登山道も変化していた。2019年秋の台風による林道(一部、不通が続いている。)、大樺沢コース、黒戸尾根、北沢から仙水峠間が不通になり、2019年秋の取材を諦めた。

特に、夏や秋のハイシーズンでは、毎週のように山を訪れ、縦走、尾根道で灼熱地獄、強風や月夜の中、ベストショットのために光の加減を待ったり、歩き回ったりと通常の山岳写真撮影活動ではしない活動にも試みた。

山岳撮影山行前には必ず撮りたい山岳風景をイメージしてから赴くが、この時期のこの場所ではこういうイメージの写真が撮れるといった季節ごとの山岳写真撮影のポートフォリオの精度が上がったように思う。

 

変化と繋がり

南アルプスと言えば、山岳写真界の重鎮の故白旗史朗先生ゆかりの地である。

私の世代では白旗先生が最も活躍した時期の作品の多くを承知しているものでもなく、取材中にも南アルプス市、早川町、椹島それぞれの山岳写真館を何度も訪れた。先生の作品から元気や希望を受けただけでなく自分には撮れないといった絶望感も味わった。当時、白根御池小屋の支配人であった高妻さんにも南アルプスの山々こと、2014年に先生が訪れた時のこと、山岳写真に対する先生の考え方や本を紹介していただいたのも私の山岳写真に対する思いが変わった瞬間であった。

芸術活動の一つである写真は、人に感動を与え、行動を変えさせると身を以て実感した。

 

また、常に情報収集は必要で、山小屋関係者との関係がより深くなった。今回の出版に当たって最新の情報を提供していただいた山小屋関係の皆様に対する出版に対するお礼参りのため改めて山小屋を訪ねたい。今後も山を訪れる度に小屋泊を優先し、最新の山小屋事情や出来事、登山者に感じていること等を聴きながら山岳写真撮影を続けようと思う。

なお、取材期間中に、山梨県立図書館を訪ねた。風土資料が充実しており、特に甲斐駒ヶ岳、鳳凰山及び奈良田の歴史を調べるのに役立った。南アルプス市芦安山岳館も北岳など南アルプスの郷土史料があり、興味深く拝見した。

 

社会貢献 

大仰かもしれないが、私は山岳風景という山からの恵みを受けて一部生活をしており、その恩返しをしたいという気持ちでこのプロジェクトに臨んだ。私にできることは表現者として写真で伝えること、そしてガイドブックにできるだけ分かりやすく文章で客観的かつ正確にメッセージを伝えることである。

山に感謝あるいは尊敬の念を抱きつつ、表現者として山の表情を伝えることができているか、山を訪れている人の気持ちを表現できているか、ガイドブックを読んで自分もこの山に行ってみたいと思ってくれるかそんなことを考えながら、写真を選び、執筆をした。

どんな目的でも南アルプスの山を訪れる人が増え(新型コロナ禍が収まった後)、当該登山者が山で楽しみ、思い出を作り、究極的には山で働いている方の生活に貢献できる。適時適切に施設、教育、登山道整備や自然保護活動にも資金が供給される。雑誌等やマスメディアで紹介され、更に登山者が増えるといった山を中心に考えるとそんな好循環型社会が実現されることに微力ではあるが役立ちたいと考えている。

 

終わりに

まずは、出版にあたりお世話になった山と溪谷社の吉野さんや編集の吉田さんにお礼を申し上げたい。また、山小屋関係者の皆様や後ろ姿になるが、写真を撮らせていただき、ポーズを取っていただいた登山者の皆様にもこの場でお礼を申し上げたい。

南アルプスにはこれからも訪問し、山岳写真撮影を続けたい。Go Photo Trekking! 山に行かなければ、山岳写真を撮影できない。山で出会う新しい発見を楽しみ、山岳関係者とのふれあいや山への接し方を今まで以上に大切にしながら、また山を訪れたい。