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兼業フォトグラファー

3月下旬に山梨県新道峠にて山岳夜景撮影をした。最低気温が-18度で驚いた。見間違えでないことを何度も確認した。

富士山に迫る天の川がとても印象的だった。山岳夜景、星景写真表現にはさまざまな方法があるが、月光浴をする富士山と天の川のone shot screen (1回のシャッターで画面を創作すること)では個人的にはこの程度が最も優れているように感じる。

 

私の写真家としての生き方 

前にも述べているが、私は、専業フォトグラファーではない。もっと正確に言うと、専業になり生活していく能力や技術もないから兼業をしている。もちろん、専業に憧れを抱いているのは言うまでもない。

写真家として一気に有名になったところ、残念ながら最近名を聞かなくなってしまった写真家もいて、従来より、私自身は有名にならなくても細く長く蕎麦のようにこの世界で生きていくことを希望している。

 

山岳写真を撮影してから、子育てや学生時代の一部の期間を除けば通算20年以上になるが、最近の7,8年で出版社から山の写真ありますか?記事をお願いできますかと頻繁にお声をかけていただく身分にもなった。自分としては考え方や人生の方向性が認められてきたようにも思っている。

 

師匠の中西俊明先生からもよく言われ、30代後半ころから幾度となく歯がゆい思いをしたが、写真家のみで生活していくのは本当に限られた者しかいないし、山岳写真のみで食べていくのはとても困難であることを身に沁みて理解できたのも最近であって、自分の実力を過大評価し、独立することはできず、もはやこの世界では、自分の実力では兼業でしか生きていけないというのが実感でもある。

 

この論調に異を唱える方もいた。やってみないと分からないこともあるし、独立してから生活を組み立てていく方法もあるという主張だが、私にはこの考えに与することは容易ではなかった。意欲が欠如していると批判されるかもしれない。

 

若者(Z世代、30代)写真家が考えていること

最近、複数の20, 30代の山岳写真、風景写真を志す者からどうすれば写真家として生きていけるか話をした。私の子供も同様だが、最近の若者は生活に対してとても堅実で将来の見通しを持っている。別の言い方をすると安定志向が強く不確実性を好まない傾向がある。既に独立している方から見ると生きる力強さが足りないと感じるかもしれない。これは私たち親世代の育て方や社会環境の影響が多分にあるものと思うが、そのような方々に、恐る恐る私の考えを述べたが、どうも納得感があり、受け入れられるようだった。「生活もできないのに作家活動を継続するのは難しいし、親に迷惑もかけられないし、顔向けもできない。結婚もできないし、社会から認めてもらえない」旨の言葉が一様に返ってきたのがとても印象的だった。若く成功している方から見るとそのような発想自体が成長を阻害していると見られそうだが、私にはこのような現代の若者の発想を受け入れられるし、何よりも不確実性の高い社会で生きていかなければならない子たちへの親御さんの想いや知恵が詰まっているように感じてしまう。

 

セルフパトロン、次世代写真家のロールモデル

元来、芸術を志すには必ず資金源が必要だ。これは18, 19世紀の絵画や音楽の世界でも成功者のバックには必ず出資者いわゆるパトロンがいる。そのような資金源があるからこそ、安定して、作品制作に集中できる。私たち普通の写真家にパトロンがつくことはありえないので、どのように資金源を確保をするのかは十人十色だが、私の場合、セルフパトロンだ。自ら、給与所得者として稼ぎつつそれを原資にして作家活動を行う。現実世界は甘くないし、夢ばかり語ってもいられないし、作家活動ができなければ、各々写真家で達成しよう夢を実現することが遠のいてしまう。

 

企業でもカメラを使う場は実はたくさんある。広報部、総務部、不動産部などのほか営業現場で使うこともあろう。写真に関係ない別の部門で働き、写真は別世界と考えるのも良いだろう。むしろ、大切なのは、勤務で疲れ切った心と体の中でどのように作家活動に向かうのか、作品をどのように創造していくのか、撮影活動の時間をどう捻出していくかを真剣かつ慎重に考えていく必要があることだ。企業活動をしながら、写真家になり自分を高めていく、ライフワークとなるテーマを見つけコツコツと撮影を続けていく、そんな写真家がいても、ダイバーシティとインクルージョンが求められる時代には認められるのだと考える。そんな中で日本写真家協会(JPS)に加入できたのは望外の喜びで感謝もしている。JPSは写真界を牽引するプロ写真家の公益団体で多くの写真家に知れ渡っている。

実際にそのような名誉ある立派な団体に加入が認められ、出版社からも評価が上がっているのも肌感覚だが感じていて山岳写真家(ライターも)を育てること、また志のある若者を増やすには出版社として何ができるか等相談も受けるようになった。

目的は相違するものの、数年来、政府も企業に対して、兼業を認めるよう積極的に働きかけている。ここにも次世代の方々に生き方を見つけるチャンスがあるのだろう。

私は、そんな次世代の写真家のロールモデルになれると嬉しい。

 

フォトコン5月号「一生懸命フォトグラファー列伝」で神立尚紀氏からインタビューを受け、自らの半生とライフワーク、写真家としての心構えを伝え、微力ながら社会に対して一石を投じたつもりでもある。